信用金庫や地銀は、中小企業へ融資するかどうかの判断を行うに
当たって金融庁の検査マニュアルに従って判断を行います。
その検査マニュアルには、具体的な事例とともに銀行
(信用金庫・地銀)が融資するかどうかを判断したポイントと、
その判断基準の適否について解説が記載されています。
この【銀行交渉のポイント編では】27パターンの事例を紹介します。
中小企業の経営者の皆様におかれましては、
御社の決算内容、銀行との交渉と比べながら読んでいただくと
わかりやすいと思います。
以下の事例集は、すべて銀行(信用金庫・地銀)の立場から
書かれた内容なのでこの文中で債務者と表現されているのは、
一般の中小企業のことです。
【事例-12 経営改善計画に沿った形で業績が推移している状況で銀行はどのように評価しているか。 】
【概況】
債務者は、当行メイン先(シェア97%、与信額:平成13年3月決算期
330百万円)。関東一円を事業区域とするトラック運送業者で創業30年。
その間、事業区域の拡大、営業所の設置等、業容拡大に努めてきた。
当行とは創業当時からの取引である。
【業況】
景気低迷による貨物輸送の絶対量の減少、また、参入基準、運賃規制等
の規制緩和による競争の激化等で、ここ数年の売上は減少傾向、
利益率も低下。その結果、積極的に行ってきた設備投資の金利負担が
相対的に大きくなり、3 期連続で赤字を計上。財務内容は倉庫部分の
減価償却不足額を加味すると実質債務超過状態に陥っている。
当行の貸出金は割引手形と証書貸付で、前者については、その振出人は
当行の優良取引先のもので特段問題はないが、後者については、
大型トラック購入資金と過去の支払手形決済資金を一本化したもので、
3 年前から元本返済猶予の条件緩和を行っている。
当行は、代表者から「今後は輸送販路の拡大等売上増加に向けて更なる
営業努力をし、引き続き経費抑制にも努める。収益力が回復したならば、
再度分割返済したい。」との申出を受けたことから、債務者側の今後の
売上増加、個人資産売却による借入金及び金利負担の軽減などの経費抑制等
に向けての方針、事業計画について検討し、今後 3 年間元本返済を猶予すれば、
その後約定返済も可能との確信を得て条件緩和に応じた。
代表者の話によれば、今期の決算見込では、売上は微増ながら、
経費抑制の効果もあり赤字幅は縮小する見通しとのこと。
今後も新規顧客の開拓等に努め、来期には黒字を計上し、約定返済も再開
したいとしている。
【自己査定】
当行は、赤字幅は縮小する見通しとなったことや、長年の取引先で今後とも引き
続き支援方針であることから、要注意先(その他要注意先)としている。
【検証ポイント】
経営改善状況と今後の見通しについて
【解説】
1.例えば、売上の減少により連続して赤字を計上している等業況不振が続き、
減価償却不足額も加味すると実質債務超過の状態にあり、かつ借入金の返済も
事実上延滞の状態にある債務者については、一般的には、返済能力は認められず、
今後、業況回復の可能性が低いと認められるのであれば、経営破綻に陥る可能性
が高い状況にあると考えられ、破綻懸念先の債務者区分に相当する場合が多い
と考えられる。
2.本事例の場合、金融機関が当該条件緩和を実施する際に、債務者の今後の
収支見込み等を基に返済能力を検討した事業計画等に沿った形で業況が推移し、
今期になってその兆しが現れてきたと考えられる。今後も業況の改善が見込まれ、
さらに借入金の約定返済に向けた動きが見込まれると判断できるのであれば、
要注意先(その他要注意先)に相当する可能性が高いと考えられる。
3.なお、中小・零細企業等の債務者区分の判断に当たっては、
今後の業況見通しや借入金の返済能力の判断について、債務者が作成した
経営改善計画や収支計画等によって確認することが望ましいが、
それらがない場合であっても、例えば、本事例のように、金融機関が返済条件の
緩和を行う際、債務者の今後の収支見込等を基に返済能力を検討した資料等で
確認することもできると考えられる。その際、債務者の今後の収支見込等については、
具体的かつ現実的なものかを過去の実績等も踏まえて確認する必要がある。
また、当該業種の特性として、一般的に、車両、倉庫等への投資が大きく、
固定資産比率が高いため、減価償却不足の状況、また、顧客からの回収不能債権
(運賃)の状況等、正確な財務内容(実質債務超過の解消の可能性)
も合わせて検討する必要がある。
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今日のポイントは、金融機関が当該条件緩和を実施する際に、債務者の今後の
収支見込み等を基に返済能力を検討した事業計画等に沿った形で業況が推移し、
今期になってその兆しが現れてきた点が高く評価されたと考えられます。
今後も業況の改善が見込まれ、さらに借入金の約定返済に向けた動きが
見込まれると判断できるのであれば破綻懸念先に分類されないようです。
今回も、実現可能性の高い経営改善計画の立案と、その計画に沿った
業績の推移がポイントでした。
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