【銀行交渉のポイント編-3】
信用金庫や地銀は、中小企業へ融資するかどうかの判断を行うに当たって
金融庁の検査マニュアルに従って判断を行います。
その検査マニュアルには、具体的な事例とともに銀行(信用金庫・地銀)
が融資するかどうかを判断したポイントと、その判断基準の適否について
解説が記載されています。この【銀行交渉のポイント編では】
27パターンの事例を紹介します。
中小企業の経営者の皆様におかれましては、
御社の決算内容、銀行との交渉と比べながら読んでいただくとわかりやすいと思います。
以下の事例集は、すべて銀行(信用金庫・地銀)の立場から書かれた内容なので
この文中で債務者と表現されているのは、一般の中小企業のことです。
【事例3 会社の決算書の債務超過額よりも、社長が所有する個人資産額額の方が多い場合の銀行の判断は?】
【概況】
債務者は、当金庫メイン先(シェア 80%、与信額:平成 13 年 12 月決算期 180
百万円)。不動産仲介、賃貸及び戸建分譲の3分野を手掛けている昭和 62 年に取
引を開始した不動産業者である。
【業況】
最近の景気低迷による仲介物件や戸建分譲の減少から、売上は下落傾向にある
(前期 146 百万円)ため、毎期赤字を計上している。
また、バブル期の分譲プロジェクト計画が頓挫して塩漬けになっている土地が
多額の含み損を抱えていることから前期 100 百万円の実質債務超過となっている。
当金庫の融資額は上記プロジェクト資金で、これまで元本の期日延長を繰り返し
ていたが、ここにきてようやく期日一括返済から長期間にわたる約定返済に切り替
え、代表者が個人預金から返済を行っている。
代表者は、土地等の不動産(処分可能見込額ベース)及び家族預金等を前期末で
合計 120 百万円程度有している。
【自己査定】
当金庫は、代表者は会社が有事の際には私財を提供する覚悟があることが確認で
きていることから、法人・個人一体として考えると債務超過の状態にはなく、加え
て現に、代表者が返済していることを踏まえ、要注意先としている。
【検証ポイント】
代表者の資力を法人・個人一体とみることについて
【解説】
1.一般的に、バブル期に取得した土地の地価の下落により債務超過に陥り、また、当
該土地を売却できないために貸出金の期日延長を繰り返している場合には、債務者の
財務内容、貸出条件及びその履行状況に問題があることから、要注意先以下の債務者
区分に相当する場合が多いと考えられる。
しかしながら、中小・零細企業の債務者区分の判断に当たっては、当該企業の財務
状況のみならず、例えば、代表者の個人資産等も勘案して、その上で債務者区分を検
討する必要がある。
2.本事例の場合、貸出金は長期にわたって実質延滞状態にあるほか、多額な塩漬け物
件の含み損等から実質大幅な債務超過状態にあり、貸出金の回収に重大な懸念がある
とも考えられ、破綻懸念先に相当する可能性が高いと考えられる。
3.しかしながら一方、代表者は、企業の実質債務超過相当額を上回る個人資産を有し、
当該資産を債務者に提供する意思も確認されているほか、現に、個人資産から企業の
借入金の返済も行っている状況にある。
したがって、こうした代表者の資産内容を検証したところでの返済能力や返済の意
思が十分確認できるのであれば、要注意先に相当する可能性が高いと考えられる。
4.なお、代表者等の資産について検討するに当たり、その資産の有無のみならず負債
や代表者等個人の収支状況等についても確認する必要がある。(具体的には確定申告
書、今後提供しようとする資産の登記簿謄本や、他金融機関、ローン会社等の抵当権
の設定の事実等)。
また、例えば、代表者が当該企業と別に企業を営んでいる場合、当該別企業の業況
が芳しくなく、当該別企業に対して今後もかなりの資産提供が予想される場合や個人
で多額の借入金を有する場合などについては、その程度に応じて、要注意先以下に相
当するかを検討する必要がある。
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今回の事例では、会社の決算書が債務超過であっても、いつでも処分可能な
社長の個人資産が債務超過額を上回る程度であれば、それを加味して銀行は
会社の財政状態を評価することがわかります。
貸しはがし等に、なる前に社長個人の資産の情報を銀行に開示しておくことも
重要かもしれません。
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